サンリックコラム

vol.05

レアメタルの話や業界のトレンド、サンリックの日常など、ざっくばらんなテーマをコラム形式で掲載していきます。不定期更新。

イノベーション

白い光でイノベーション その4
—— 希土類から高分子へ、オリジナリティの追求 ——

寄稿:山形大学 フェロー 城戸 淳二

2026/03/16


さて、有機ELの材料の話。

かつて「キドカラー」と呼ばれたブラウン管テレビがあった。
なにやら私の名前に似ている。
「発明者はキドさんなのね」と幼い頃は思っていたが、そうではなかった。
その「キド」は私の城戸ではなく、赤色発光体に使われたEu(ユウロピウム)、つまり希土類元素(レアアース)を使っていたから、そう名づけられただけだった。

だが、まったく関係ないとも言い切れない。なぜなら、私はまさに、次世代ディスプレイの研究にその希土類で身を投じようとしていたのだから。
有機ELの研究を始めた私は、まずTb(テルビウム)錯体を電気で光らせることに成功した。

それは緑だった。

鮮やかで、鋭く、凛としていた。
「これはいける。希土類の城戸、世界に名を轟かせる時が来た」 そんなことを本気で考えていた。
論文をバンバン出して、学会ではジョッブスのようにかっこよく基調講演を行う。そんな青写真も描いた。

ならば次は、赤である。

赤といえばEu(ユウロピウム)。
例のキドカラーにも使われていた、あの“テレビの赤”だ。
ところはニューヨーク、ロングアイランドのブルックヘブン国立研究所の実験室。
さっそくEu錯体を合成し、真空蒸着で薄膜化してデバイスを作ろうと試みた。

だが、夢は早々に裏切られる。
できた錯体は、真空中で加熱しても蒸発せずに分解してしまったのだ。
真空蒸着、舐めたらあかん、を思い知らされた。

そこからが、むしろ本番だった。
蒸発せぬなら、溶剤に溶かして塗ってしまえ。
ユウロピウム錯体を、紫外発光する高分子——ポリシランの中に分散させて、膜を作ることを思いついた。
ポリシランはホール輸送性の性質を持つ。かつ紫外部に発光を持つ。
ならばその上に電子輸送性の有機半導体を真空蒸着し、ヘテロジャンクションを形成すれば、電子とホールの再結合で錯体が励起するかもしれない。

早速、リチウム金属を使った合成法でポリシランを合成し、Eu錯体と共に溶剤に溶かして基板の上にスピンコーティング。その上から電子輸送性の低分子材料を真空蒸着。化学が専門で良かったと思った。

そしてある夜、完成した素子を接続した電源のスイッチを入れた。
赤く光った。
それは、舞台に立つデビューしたての女優の口紅のようなちょっとオレンジがかった赤だった。

どこか若々しい。
その赤い光で私の中の高分子研究者魂が目を覚ました気がした。
当時、有機ELの世界には二つの「派閥」があった。
一方は「低分子系」——分子量の小さな材料を真空蒸着で成膜するグループ。日本が主戦場だ。
もう一方は「高分子系」——π共役高分子を溶液から塗布する欧米勢。こちらは導電性高分子の研究者たちが参入していた。
日本は低分子、欧米は高分子。
東西の色分けは、まるで冷戦時代のイデオロギー争いのようだった。

そして、日本の低分子系には、すでに旧帝大の大御所たちがズラリと並んでいた。
潤沢な予算、高価な装置、そして優秀なスタッフ。
それに比べて、こちらはどうだ。
地方大学の研究費もろくにない、アメリカ帰りのチンピラのような若造がひとり、コツコツと実験を繰り返す日々。
同じ土俵だと勝てるわけがない——そう思った。

でも、引き下がるわけにもいかない。

ならば、やるべきことはひとつ。
「誰もやっていないことをやる」、それしかない。

私は考えた。
高分子と低分子を混ぜるのはどうだろう。
塗布と蒸着のハイブリッド。
誰も気に留めなかった方向に、私は意図的にハンドルを切った。
しかも私が所属していたのは「高分子化学科」。
これも何かのご縁、高分子に賭けるのも道理というものだ。

学生たちには「低分子を高分子化した材料」を使った素子研究を指示した。あくまでもメジャーな「π共役高分子ではない」方向性だ。
さらに、それらの高分子と、蒸着した低分子を組み合わせてデバイスを作る。
よく言えば、電気自動車とエンジン自動車のいいとこ取りをするハイブリッドカーのようなアプローチだった。

それは、勝つためではなく、生き残るため、目立つための知恵だった。
いや、アマゾンのジャングルの入り口で、自分だけの道を切り拓くための冒険でもあったかもしれない。
「希土類の城戸」は、いつしか「高分子の城戸」になっていた。

だが、私はそれを誇りに思っている。
なぜなら、科学に必要なのは、研究費でも装置でもない。
想像力と、少しの反骨心だ。

つづく。

寄稿:山形大学 フェロー 城戸

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